シナリオフック4 「人と獣のきわ」


《設定》

  • スラム・エスニで立て続けに人が消える事件が起こる。消えたのは全員不法就労者や不法入国者だし、行方不明は日常茶飯事なので警察は全く捜査を行おうとはしない。行方不明事件が起こって数週間後、今度はスラムで大規模な殺人事件が発生する

《導入》

  • PCの一人は探偵か、はぐれものの刑事で、前者の場合はスラムの住人から依頼があり(スラム近くの港湾地域の倉庫街などに住んでいる探偵だと良いだろう)、後者の場合はおざなりなもので捜査を打ち切ろうとした捜査本部に見切りをつけてたった一人で捜査を継続することに(当然警察の援助は受けられない)
  • PCと取引のあった男が行方不明になる。彼に預けた品かあるいは代金を取り立てなければならない
  • PCはスラムの住人であり、行方不明者の知人(血の繋がりのある家族は×、義理の兄弟とか親子なら○)である

《展開》

  • 行方不明者の幾人かは、最近スラムで勢力を伸ばしつつあった大陸系ギャング濾餡幇と諍いを起こしていた事がわかる。濾餡幇と接触した場合、彼らは行方不明事件との関与を否定する(現地調査&裏社会で捜査)
  • 恵栖二市の支配的企業、和田産業の傘下にあるグループ企業の一つ、和田防疫研究所の動きが活発化しているらしい。研究所に和田産業の暗部であるWSS(和田セキュリティサービス)第七課課員が現れたとかなんとか(政治知識とか経済系のコネなどで調査)

 以上の情報が出揃ったら次の事件が起こる(上に加えて、ダミーとかも適当に混ぜつつ)

  • 濾餡幇のアジトの一つが襲撃され、皆殺しにされる。現場に散乱する遺骸はみな牙や爪のような跡が残っていたのだが、ただ一つだけ銃弾を一身に浴びた死体がある。それは行方不明者の一人だった。スラム内での犯罪組織同士の抗争と見た警察の動きは鈍い。街ではニュースにも取り上げられない
  • 周囲を調査すると、事件前後に和田防疫研究所の所員らしい男達の姿が見受けられたという証言を得る事が出来る
  • PC達がスラムか研究所を張っていると防疫研究所からトラックが2台来て、濾餡幇の本拠地近くで停車し、檻を設置する。所員たちが車内に引き上げると、自動的に檻が開き、中から二体の毛むくじゃらの獣が飛び出てきて濾餡幇の本拠地に侵入、殺戮を開始する

《真相》

  • 行方不明者たちは、大陸からの難民で実は山人の末裔、中でも特殊な血筋で獣憑きである。彼らの存在を知った和田防疫研究所の所長羽佐間寛二は当初それが病気ではないかと防疫学的立場から研究していたのだが、実は遺伝的なものでしかも彼らは人間とは程遠い存在である事を発見する。さらに調査を重ねるべく被検体を複数拿捕し、生体実験を重ねていたのだが、一体がその身体能力を生かして脱走。スラムに戻ってきた所を不運にも濾餡幇のメンバーと鉢合わせて殺し合いになってしまった。事件を知り、実データを得る事ができなかったのを歯噛みして悔しんだ羽佐間は警察が動かないのを良い事に残ったギャングの本拠地へ襲撃を企てる

《結末》

  • 濾餡幇を壊滅させると、犬笛と首輪に仕込んだ電撃発生装置によって解き放った獣人たちを再度檻へと繋ぐ羽佐間。薬物投与と特殊な暗示(笛で発動)によってその行動を操作し、首輪につけた電撃発生装置及び生体モニターで活動を監視しつつ有事には伝奇ショックを与えて身動きできなくするのだ
  • PC達と会話して邪魔をするようなら獣人たちをけしかけようとする。羽佐間の持つ笛と装置を破壊できれば逆に羽佐間が襲われる。両方なんとかしないと駄目
  • 羽佐間を撃退し獣人を解放すると、彼らは辛うじて正気を取り戻す。薬物投与と生体実験で大分ガタがきているが仲間を助けなければならない、と言って研究所へ向かう
  • PC達がどこまで関わるかはわからないが、そこで分かれたら彼らは安住の地を求めて何処かへ去ってしまう。研究所まで行って、所員やデータを全て処分するのならば、彼らは以前のようにスラムに住みつづける事ができ、元通りとは言えないが戻ってくる事ができる

以下のような会話とか出来たらいいにゃーとか思ったりしたりして。
P=PCの誰か、羽=羽佐間
P「彼らを放せ!ケダモノみたいに扱いやがってこの人でなしが」
羽「君は、外見が違わないからと言って人形を人間と同じように扱うのかね?」
P「人形と人間は違う!」
羽「ではもう一つ問おう。君はチンパンジーに人権を認めるかね?」
P「チンパンジーは人間じゃない。何を馬鹿な事を」
羽「遺伝情報的に、獣人たちはチンパンジーよりも人間と離れた存在なんだよ。彼らは人間ではないんだ」
P「だが彼らには心がある。遺伝子なんか関係ない!」
羽「チンパンジーに心が無いと誰が証明できたんだい?論文か何かがあるなら是非教えてくれたまえ」

……

羽「ここまでいえば判ってもらえると思うのだが、君が積重ねてきた議論にはなんら根拠が無く、筋道だった物でもない。君が我々の行動を阻むのは、我々の邪魔をしたいからだ、とそう判断してもよろしいかね」
P「あんたおかしいよ。人としての心は無いのかよ」
羽「医学というものはね、こうやって進歩してきたのだ。長い年月をかけて一歩一歩前進しながら。その際尊い犠牲があった事は認めるに吝かではない。我々は今の繁栄がそれら犠牲の上に成り立っている事を忘れてはならないのだよ」
勿論私は忘れない、と呟きながら目を軽く伏せて胸に手をやる羽佐間。その光景は月に照らされ、祈る人にも似ている。


殺戮に酔った獣人が制御を離れて羽佐間の内臓貪り喰ったりとかできたらさらにいいかもな。