キャラ設定後編3

今回で終わりだ!
と思ったんですが。



ぶひぃ。
後編3
 六日目の朝、やはり六日ぶりに扉が開かれ、ツナギを着た女と粗末な服を着た男二名が部屋に入ってきた。「久しぶり〜。元気して……うおっ!くさっ!!何これ、うあぁ……垂れ流しじゃん」部屋の中では、マシューがうつぶせに倒れていた。頭の近くに水差しが転がっている。トイレで用を足す気力も無かったのだろう。寝転がったまま大小便をいたしていた。幸い、最近は胃の中にほとんど入っていなかったので大の量が少ない事だけは救いだったのだが。「こりゃ直接つれてけないねえ。ていうかあたしはこんなの運びたくないから。あんたたち、ちょっとシャワー室まで連れてって軽く洗ってから連れてきてよ。手足に手錠かけるの忘れないでね?」
 数十分後、乱暴に洗われまだ髪も乾かないままに、粗末だが新しい下着を与えられたマシューは、広い倉庫のような場所に連れてこられた。倉庫の真ん中北寄りに木で組まれた台があり、そこには大きな祭壇のようなものが設置してある。両側を男たちに引っ立てられながらその壇を見やった。「ここはね、太陽の祭壇と呼ばれています」今は便宜上そう呼んでるだけで本来ならもっと立派な施設を用意しなければいけないんですけどね、とあの女が続けた。そちらに繋いでください、と男たちに指示を与える。マシューは祭壇のすぐ近く、台にある金具に鎖でつながれた。
 「俺をどうするつもりだ。お前は一体何者なんだ……?」なんとか声を振り絞ってそう聞いた。「質問は一度に一つにして欲しいですね」といいつつ、質問には答えず女はマシューの傍に寄ってきて、彼女が以前潰した左目に手をやった。「結局治らなかったんですね。あれで目覚めると思ったんですけれど」丹精な顔を悲しみに曇らせる。「叔父様に消えない傷を遺してしまいました」と言い、自分の着ているワンピースに手をかけた。ボタンを途中まで外し、その下のシャツのボタンも外してはだけて見せる。「な、なにを……」「ねえ、見てください、叔父様に撃たれた傷痕、綺麗に治ったでしょう?」言葉につられて思わず服の中を覗き込んでしまうマシュー。傷どころか、滲み一つ無い美しい肌だった。体の芯からこみ上げて来るような欲望を感じる。冷ややかな声が上から降ってきた。「叔父様、私の身体を見て欲情されましたね?」「な、何を言ってるんだ。だいたい見せたのはそっちじゃないかっ?!」否定になってませんよ、と告げられた。視線が交差する。心の奥底まで見通されそうな、何事も隠し立てできないような瞳だった。「でも、叔父様のそれは性欲ではなくて……」
 服を整えると彼女はマシューから離れ、無邪気に笑い、両手を広げてふわりとまわって見せた。「この場所はファーム、と呼ばれている教団の土地です。教祖の死で教団は方針を変更し、俗世を離れて閉鎖的なコミュニティを形成します。ここでは薬物、酒、金銭などのあらゆる悪徳が排除され、身を清めた信者たちが使徒的清貧を実践するのです」今のマシューには女の言葉は半分も入らなかったが……、女の口がこう動いたように見えた「表向きにはね」と。
 「さて、そろそろ準備をしないと」そういうと女は近くの信者に合図を送った。倉庫に香が焚かれ始める。マシューのすぐ傍らにも香炉が一つ置かれ、その煙を吸っているとゆるやかにではあるが、徐々に意識が高揚し、感覚がするどくなっていくように感じた。「色々混ぜてはありますが、基本的にはLSDと大差ないですよ。中毒性も低いですし、人体にはほとんど影響無いはずです」もうマシューにとってはどうでも良かった。今更この程度のドラッグでどうにかなるものでもなし。それよりもまた飢えがよみがえってきた。喉も渇いている。何でもいいから酒が飲みたかった。
 ガラガラ、と車輪がコンクリの床を転がる音が聞こえてくる。呆けた顔でそちらに目を向けると、ツナギの女が台車にパイプで組み立てられた拘束台を載せて運んでおり、その台には下着一枚の男が縛り付けられていた。覆面で顔は隠されており、また猿轡でもされているのだろうか、時々呻くのが聞こえるだけで喋れないようである。祭壇の近くまで台車を寄せると、近くの信者たちに命じて祭壇の上に、男を拘束台ごと置かせた。「はい、お疲れさん。みんな出て行っていいよー」とツナギの女が信者たちを倉庫から追い出して鉄扉を閉じた。
 「はい、研いでおいたよ」、とツナギの女が肉斬り包丁を手渡した。「随分とお腹をすかせてますよね?すぐに準備をしますわ」と、にっこり笑うと拘束された男の腹部に包丁を突き刺した。そのまま横に薙ぐ。血飛沫がマシューの所まで飛び散る。拘束された男は声にならない悲鳴を上げた。しばりつけながらも大きく痙攣し、ジタバタともがく。腹圧で内臓が飛び出す。生暖かい鮮血が湯気を立てながら床に広がり、汚物の臭いが漂ってきた。マシューの目の前で、色とりどりの内臓が宝石箱をひっくり返したようにぶちまけられた。命の輝きを帯びた宝石たち。一時、魅入られたように声も無く呆けていた。女はその光景を見ると、満足そうにして、小腸の一部を幾つかに小さく刻んでマシューの目の前にそっと差し出した。
 差し出されたものは、血と体液にまみれ異臭も漂わせている。だが、その猥雑さがマシューの心を捉えてやまなかった。「さあ、遠慮なさらずにどうぞ。まだたくさんありますから。はい、お口を開けて、アーン」朦朧とした頭で頷いた。のろのろと、差し出されたソレを咥えてみる。口内に広がる強烈な鉄分。一瞬吐き気がしたが、目の前の女はそれに気付いて優しく微笑み、「一気に飲み下しなさい」と命じる。一噛み二噛みして飲み込んだ。3週間の間、ほとんど使用していなかった胃袋だが、吐き気は嘘のように治まり、さらなる飢えが戻ってきた。口蓋を通り喉を過ぎ食道を降って胃に至る。消化がされる前から、それが力となって身体の隅々まで行き渡るのを感じた。馴染む!馴染むぞ!!もっと、もっと食わせろ!!女の手のひらに乗っていた臓物を全て平らげる。そんなものでは足りなかった。鎖を引き摺ったまま女を押しのけ、拘束台に近寄る。飛び出ている小腸にくらいついた。異臭のする大腸を噛み千切った。傷口に鼻先を突っ込み、押し広げ、口が触れるもの全てを飲み込む。一口ごとに力が湧いてくるのを感じた。自分の体にこれほどの力が隠されていたとは思わなかった。空腹が満たされるとともに、感覚が敏感になるのがわかった。軽く力を入れると両手両足を拘束していた手錠が吹っ飛んだ。獲物から離れ、雄叫びを上げる。自分の声とは思えなかった。どこか遠くで犬だか狼だかが吠えているように聞こえた。
 女がいつの間にか傍にきていた。いや、すぐ近くでマシューの健啖ぶりを眺めていたのだ。獲物を横取りされる事を警戒し、牙を剥いて威嚇するマシュー。女は首を横に振ると、そっと拘束台に近づいて、はらわたを食い荒らされ絶命寸前の男の覆面と、ギャグを外す。そこには、泡を吹き苦悶に喘ぎながら助けを請うジョージの顔があった。女は一歩横に下がるとこう言った。「この方をお連れするのは大変でしたよ?他のギャングの方たちと一緒に危うく殺してしまう所でしたから。しかしマシュー叔父様、叔父様はお友達が少ないのですねえ。あと数人いらしたらもっと楽しめたのですが」と、とびきりの笑顔で。顔全体を血で汚したまま、呆然と男の顔を見るマシュー。「う、うぐぅ」ジョージは最後にそう呻くとこうべを垂れて息絶えた。