短期集中連載「俺と牧夫」第死回『融合者』

今回からは4回連続でクラスについて。
各クラスがどのような理由で存在して、どのような背景をしょってるのか……。
そこらへんを適当にでっち上げてみたいと思います。




「なんて同調圧力……魂が根こそぎ持っていかれそうだッ」
「こ、声が聞こえる、たくさんの人の声が。これは……先輩?戦死したはずの先輩なの?!」
「まだ、まだ死ねないんだ。俺が知った事を、俺の目的を、誰かに引き継がないと……」
「君は世界を救うために生まれたんだ」そう聞かされて育った。
生まれた時から他人とは異なるエリートだった。
いつかは神格機兵を操り、魔性の者達と矛を交え、弱き人々の盾になると信じて疑わなかった。
そのためなら、過酷な訓練にも、脱落していく仲間を見捨てる事にも、親しかった先任者の死にも、耐えられた。
覚醒した時にも、今まで隠されていた多くの事物に驚きはしたが、一般人を守るためだと諭され、自分はその真実を知ることができた、やはり選ばれた存在だったのだと言う使命感とエリート意識に誇りをもちさえしたものだ。
過酷な使命だとて、覚醒した者にしか成し得ない、自分だけが可能な人類救世の偉業。
必ずや乗りこなしてみせる、全てが変わる日が来るのだ!
そう自分に言い聞かせていた。


そして、ようやくその日が来たのだ。

ギガースに乗る日が。


そこに座ってみると明らかな違和感を感じる。
幼稚な夢想は一撃で打ち砕かれた。


ひとたび目覚めると、天を裂き地を割る圧倒的なまでの力で悪を退ける。
常に危険に脅かされる人類を救う無敵の巨人。
この薄暗がりの時代の一明の希望、救世の大神。


そう思っていた。そう信じていた。いや、そう信じ込まされていた……?


先輩の声が聞こえる。
かつて自分に夢を語り、また自分もその夢の成就を目標とした、憧れだった人。
そしてその先輩よりももっと以前にこれに乗った先達たちの声も。
みんな死んだはずだった。
そして死んだ後もここにいるのだ。


魂の牢獄。


そんな言葉が脳裏に浮かぶ。
そこで初めて……自分は生贄として捧げられたのだと気付いた。
もう全てが遅かったのだけれど。


ギガースの力を解放し、魔を討つたびに、体の一部が奪われていくような喪失感を感じる。


魔?魔とはなんだ?ルーベル達に弱みに付け込まれ、追い込まれ、全てを失った哀れな同胞ではないか。
魔と言うなれば、紅き血の者たちこそがそう呼ぶに相応しいのに。

基地を歩いていると、噂話を耳にした。
「あいつもそろそろだな……」「持った方じゃないのか?前のは一戦目で相打ちだっただろ」「いや、あれはロードが処理したらしいぜ……」「おいおい、またかよ……」


翳む瞳、一瞬で世界から光が失われる。


自分は何をやっているのだ?
自分には何ができるのだ?
自分は本当は何をすべきだったのだ……?
いや、まだだ、まだ何かできる事があるはずだ!
やがて自分はあの悪機に取り込まれるだろう。
そう遠くない将来に。
だが、これを誰かに伝えれば、いや、消える前にせめて一矢でも報いてから……。

そしてまた一人、ギガースの搭乗者が交代させられる。
融合者に安らぎある死なぞない。
今までも、そしてこれからも。