短期集中連載「俺と牧夫」第戮回『謳い手』

これもこんな感じですよ!!
絶対そうだ!
おばあちゃんがそうだって言ってたんだよ!!





「聞こえないのですか?こんなに近くに居るのに。こんなにも助けを求めているのに。本当は聞こえているのではないですか?聞こえない振りをしているだけじゃないのですか?こんなにも貴方に救いを求めているのに……。この苦しみと悲しみとを無視するんですか!自分には聞こえない、自分には見えない、だから無視するんですか!?」
声が聞こえた。
最初は空耳だと思った。
すぐに勘違いではないと気付いた。
聞いた事のある声も聞いた事の無い声もあった。
一度聞いてしまった後は、耳を塞いでいようが、音楽を聴いていようが、眠っている時ですら声は止まなかった。
初めて声を聞いたあの時から、夢は見ていない。


周りは気のせいだと言った。
お医者さんはお薬を出してくれた。
これで夜も眠れる。


他の人は信じてくれなかったけど、統率者の偉い人は信じてくれたようだ。
彼は声が聞こえるのは当然、というようにこう言った。

「君には、巨人の謳い手たる資格があるのだな。大丈夫、私は信じているとも。その声はかつて巨人に乗っていた者達の魂の声なのだよ。彼らは死した後も巨人とともに人々を守護しているんだ。君には彼らの魂を静める力がある。彼らの協力を得てギガースの真の力を引き出す事ができるんだ。君の歌なくしては平和は守れない。頑張ってくれたまえ、期待しているよ」


彼らが人々を守っている?
あんなにも嘆き悔やんでいるのに?
世を呪っているのに?
彼は本当にわかっているのだろうか?
おそらく彼にはあの怨嗟の声が聞こえてはいないのだ。
聞こえているならば、彼自身を呪う声に耐えられる訳が無い。
人々を守っているなどとおためごかしが言える筈が無い。


融合者の少年にはあの声が聞こえるようだ。
その事を話したら、力なく笑い、自分もやがてあの中に加わるんだ、と呟いた。
それっきり顔を上げなかった。


「君の歌は巨人の力を最大限まで引き出せるんだ」、その歌で巨人をサポートして、世界を救う手伝いをしてくれ、と統率者の人に言われた。
確かに自分の歌を巨人に届けると、様々な現象を引き起こせるようだ。
ただその度に悲鳴が強くなる。
恨みの声が大きくなる。


ようやく気付いた。
あの霊たちは、巨人に囚われて力を吸い取られているのだと。
そして自分の歌は、より効率よく力を抽出するための、拷問台に過ぎないのだと。


歌うのを止めた。


でも何も変わらない。


融合者の少年は戦死した。


誰かに聞いたわけではない。
巨じんからのこえに彼のこえがまじっていたのだ。


とうそつしゃにうたうようにきょうせいされる。


だか、ら、


さいごの、うた、を、うたっ、た



「発見された時現場は極めて無残な様相を呈していました。<統率者>のW氏は全身の穴という穴から出血、鼓膜は裂け、眼球の片方が弾けていました。専門家の意見では、ごく近距離から高出力の音波を浴びせればこういう事が可能かもしれない、と言う事です。現場近くで死亡していた老女は、DNA判定から<謳い手>のAさん(17)である事が判明し、何故このような事態が起こったのか現在調査は暗礁に乗り上げ……」