短期集中連載「俺と牧夫」第死地回『狩人』

今回で最後となります。
短い間でしたが妄想書き連ねられたので満足ですた。
もうプレイしなくてもイイヤーw




「No.24、もうすぐ現地だ。ついに初陣だな……」
「果たして何人が生きて帰ってこれるのか……、No.37、お前はどう思う?」
「余計な事を考えるな、今は任務の事だけを考えろ。俺達にはそれしかないのだ」
任務を果たせなければ、生き延びたとしても戻る場所なぞ無いのだから、とは言わなかった。

工場からロールアウトした時にはもう身体の成長はほぼ終わっている。
固体により誤差があるもののほとんどが成長しない。
最低限の知識や教育は、培養槽の中に居た頃に与えられている。
とはいえ彼らも最初から大人と言う訳ではない。
試験管の中で生まれてから、培養槽に移され、彼らのような存在のために調整された特別性の成長ホルモンを多量に投与されるのだ。
母体から出産される訳ではない彼らは特別に遺伝子を調節されているため、専用の成長ホルモン無くしては生存できない。
そして半年間の月日を経てほぼ成体に成長してから、この世に第二の生を受ける。
成長中に戦術電脳からインターフェイス経由で、知識だけでなくアークに対する忠誠心や各種道徳などを植え付けられる。
培養槽を出てからは、一通り機能に障害が無いかチェックされ、問題があれば廃棄、無ければ即座に訓練を受けるのだ。
知識面は問題無いのだが、肉体を思い通りに動かす訓練を受けなければ生まれついて持たされているその高度な身体能力を発揮する事はまず不可能。
培養槽の中で筋肉を作り、脳に知識を与えるだけでは体を動かすことはできない。
暗闇で銃を組み立て、反射で敵味方を判別して引き金を引き、眠りながらも敵を殺せるようになるためにはそのための訓練が必要なのだ。
また、集団生活を行いながら社会性も獲得していく。
普通の人間の兵士を育てるよりも、安価で時間もかからず、また身体能力においてはるかに優れている存在とはいえ、基本的な訓練を受けなければ役に立たないという点では変わらないのである。


Type XXXL-B37が所属していたのもそんな訓練基地の一つだった。
XXXL-Bは次世代型デザインウォーリアとして、瞬発力や敏捷性よりも、持久力・耐久力を重視した試験用シリーズであり、スナイピングや移動砲台として運用される事を前提に設計された。
同じように製作された幾種類もの、用途別遺伝子改造兵の中で最も戦闘継続力を期待されている試験体である。
開発に携わった者達は、期限内に製造が終了した事を安堵し、1年後に行われるNGDDBWコンベ(次世代型遺伝子改変生物兵器コンベンション)を心待ちにした。
半年間の基礎訓練の後、また半年間の高次習熟訓練を受ける。
訓練中に死傷者が出るほどの過酷な訓練を乗り越え(最初から損害を加味して個体数は生産されている)、ようやくの事で己が力を示す場所を与えられるのだ。
このコンベンションで勝ち残らなければ、試験体である事を表すXナンバーがついたまま廃棄され、二度と日の目を見る事は無いだろう。
戦闘に生き延びたとしても負けてはならないのだ。
生き残る=勝利、という図式は成り立たない。
求められるのは作戦遂行能力である。
確かに戦闘ごとに部隊が全滅していては損害も馬鹿にならないのだが、彼らは使い捨ての兵隊であり、彼らが投入されるのは、はなから生還を期待されていないような戦場になるはずだった。
人類に仇なす、人にあらざる人鬼達、人魔・鋼魔を相手とする人類存亡の戦い。
よしんば生き延びたとて、今度はその者が心の闇に魅入られないとも限らない。
魔を相手にする、というのはそういう事なのである。


コンベンションの開催場所である“サ・イタマ樹海”に彼らの部隊が潜んでから8日が経った。
既に幾度か他の部隊と干戈を交えており、敵味方に死傷者が続出している。
自分達と同じラボで開発され、ロールアウトもほぼ同じ時期にされた同系統体XXXL-Aシリーズとも戦闘を行った。
彼らの従兄弟とも言える存在は、味方の損害を省みず、総重量40kgにも及ぶ重武装チェンソーを振り回しながら障害物ごと敵を粉砕するという、まさに彼らのコードネーム“ベヘモット(陸の巨獣)”の異名に相応しい戦いぶりだった。
対してXXXL-B部隊、コードネーム“メルカバー(神の戦車)”は、一度戦場に入るや偽装して周囲に溶け込み、身じろぎ一つせずに数日、数週間でも潜み、必殺の狙撃をもって対象の抹殺を得意とする。
体重200kg近い重量を誇る彼らは、いざとなれば1月でも水のみで生息する事が可能なのだ。
あるいは市街地において、彼ら専用に開発実装されたアタッチメント式多目的特殊兵装「ニガヨモギ」の火炎放射、病原菌散布、毒ガス噴射などを駆使して都市を自らごと壊滅する......
彼らの敵は人魔であり、都市に潜んで通常の市街戦を行うはずは無いのだが、彼らは自らの武装に何ら疑いを持たなかった。


開始から2週間が過ぎる。
昨日で携行食糧は尽きていたが意識にとめなかった。
彼らは普段から大量の皮下脂肪を蓄えており、水分さえ摂取できれば持久戦は望む所なのだ。
開始当初1個小隊相当30名の隊員が居たが、現在は半数以下の13名まで減少している。
セオリー通り潜伏し、隙を見つけてはアンブッシュを行うと言う事を繰り返していたのだが、他の遺伝子改変兵に人間の精神波長を感知するタイプが存在、彼らの襲撃により全体の3分の1が脱落、壊走しかけた所をまた別の部隊と遭遇してこの体たらくである。
最初の撤退時に予備の弾薬や糧食を紛失してしまった。
通常の戦争ならば既に敗北していると言っても差し支えないような損耗率だが、彼らが戦うのはそんな当たり前の戦場ではない。
例え全滅しようと任務を達成できればそれで良いのだ。
彼らは老化しないように遺伝子調整を施されており、常人よりも肉体の最盛期が長く続くようになっている。
しかし寿命の方は短く、試験管から生まれ出て培養槽に居る事半年で成体になった後、20年ほどしか肉体が持たないのが一般的な遺伝子改変兵士であった。
生まれ出でて半年訓練を受け、そして戦場に送られる。
一般社会での生活なぞ知識としても知らない彼らが、夢や目的を持てるはずがない。
彼らが生に執着する理由なぞは無かった。
生きながらにして死兵。
命令で死ぬのならば、生きるのもまた命令だからこそ。


一月が経過した。
もう部隊にはNo.37とNo.24の二人しか残っていない。
XXXLライン以外の残敵は排除したのだが、12時間前の接触でこちらは4名、あちらは3名を失った。
確認できる限りの彼我戦力比は2:1で圧倒的に不利である。
以前痛い目を見た精神強化兵とA部隊が戦闘行動中の所を横から襲撃したのだ。
辛うじて精神強化兵を全滅させる事は出来たが、A部隊は4名しか討ち果たせず、こちらも手痛い打撃を蒙った。
そして、弾薬は尽き掛けている。
彼らもチェンソーなどの主兵装は既に起動しなくなっているのだが、燃料・弾薬を消費しない原始的な武装で戦況を有利に進めていたのだ。
こちらは僅かな弾薬と、ありあわせの道具で作ったボウガンだけしかない。
最初の壊走からこれだけ持ち直したのだから、これは彼らの優秀さの証明となるだろう。
全滅しては何の慰めにもならないが。


時間が経つほどにこちらは不利になる。
体力維持も限界に近かった。
二人で計画を練る。
動けなくなった一人が囮となり、敵を惹きつけて残りの一人が止めを刺す。
単純で、そして愚かな作戦だった。
残った敵が自分達の同類であり、持久戦が通じない相手であり、互いに手の内を知り尽くした間柄だったためにそんな愚策を選ばなくてはならなかった。
「No.37、生き延びろ。お前が俺達の生きた証なのだ」
「No.24、俺が生きるためにお前は死ね。俺はここで死んだ仲間達の事を忘れない」
そう言い交わすと二人の道は別たれた。
生まれてからずっと一緒だった兄弟達はもう二人しか残っていない。
だが、一人は死ぬ。もう一人を生かすために。


開けた空き地に死体が吊ってある。
敗北した兵が逆さ吊りにされているのだ。
昼間であればたくさんの烏達がまとわり付いている光景が離れた所からでもよく見えるだろう。
夕闇の中、No.24が空き地へ転がりこんできた。
足を負傷しているらしく満足に走る事が出来ない。
それを追って重武装の巨体が4名、藪を切り開いて現れる。
油断無く周囲を警戒し、足元に倒れ伏すNo.24へマチェットを向ける。
「お前が最後か?」
「手こずらせやがって、まぁ最後まで勝負を捨てない所は流石同族と言った所だな。ん?お前どこかおかしくないか……?」
「無駄話をしていないでさっさと片付けろ」
へいへい、と生返事を返しながら、A部隊の男はNo.24の利き腕を踏みつけ、左手で髪を引っ張り、顔を上向かせる。
そして右手の山刀で喉を切り裂いた。
空いた手で男の服を掻き毟り、声を出そうとするNo.24。
しかし、その喉は何ら音を発する事のないまま、すぐにこうべを垂れた。
周囲を警戒していた他の男が声をかける。
「このまま残存勢力の探査と掃討を続行する。我々が勝利しているならば、おそらく一両日中には連絡が来るだろう。各自警戒を怠るな」
おぅ、応えてNo.24にとどめを刺した男が、死体の頭髪を放した。


その時だった。


頭上からのボウガンと拳銃の同時射撃によって頭部を撃ち抜かれた二人が跪くように伏す。
もう一人が顔を上げた瞬間、鼻の穴が一つ増える。
最後の一人は横っ飛びに広場を出ようとして服の裾を何かに引っ掛けて倒れていた。
No.24が延ばした指がその裾を掴んでいるのだった。
男が足元を見て、悪態を付こうと口を開いた瞬間、首筋に二発の弾丸がめり込んだ。
吊られた死体だと見せかけていたNo.37がひっかけていたロープを外し着地する。
地響きを立てて倒れた巨体を見下ろす。


一月に渡る絶食に近い生活が、彼の体重を激減させていたのだ。


これが彼の短い人生で最初の戦闘だった。


彼は兄弟を無くして一人っきりになってしまいましたが、今でも元気です♪