短期集中連載「俺と牧夫」第罰回『白い血と革命と』

第死地回で終わらせるつもりだったのですが、前回が今一つ不評だった(自分の中では特にねw)事と前回を書き終えてからこのゲームの真実を知ってしまったために今回追加としてもう1回書くことにしました。
ただ、その真実があまりにもどきつく、しかも人権問題に関わってくるほどの危険ブツなので、真っ向から取り上げるのは一給料泥棒には荷がかち過ぎています。
よって従来の、誤った設定の路線上で話をさせていただきます。
ちなみにその真実にはみなさん興味がおありだと思いますので、ここに記しておきますので、反転させてください。
この単語だけで判らない場合はググッて頂くと判ると思います。

白丁





『遺伝子改造され、常人の何倍もの肉体能力を有する者が何体も脱落していく過酷な訓練を卒業し、発狂する者さえ出る人為的覚醒手術にも耐えて、ついに人類世界最強の戦闘艦の特務隊遊撃部に配属となる。この段階まで至る者は、毎年50体が製造される遺伝子改変兵タイプFAT-37GSLの中でも、わずか2,3人に過ぎない。1割にも満たない狭き門を巨体を揺るがしながらくぐった者だけが栄光へ至るのだ。特務隊遊撃部はほぼ全員が彼らと同型種によって構成されている。部隊所属者の平均寿命僅か5年という数値が、その任務の過酷さを語っている。彼らこそが人類圏の生み出した最強の固体なのだが、その彼らをしてこれだけの損耗を強いられるのだ。魔というものが常人の遥かに及ぶ所でないのは容易に理解いただけるだろう。』


 覚醒手術の後遺症も軽微であり、念願の特務隊へ配属となった。俺とその兄弟達は全員がその目的のために作られ訓練されるのだが、ゴールまでたどり着けるのは全体の4〜6%であり、適格者の居ない年もある。肉体能力を追求した固体は、自らの肉体に対する自負と依存心が強すぎて覚醒手術で失敗する確率が高いらしい。俺は幸いな事にそうではなかったので一安心だ。数年前にその推論が作られ、幾つかそれを裏付ける研究が発表されてからは、次世代型の調整が進められているという話を聞いた事がある。もう2,3年すれば俺達をさらに改善した新型が出てくるだろう。それまで生きていられるかはわからんが。
 遊撃部員−一般的には狩人と呼称される(俺は結構この呼び方が気に入っている。)−は他の特務隊員とは異なり、全員が高い戦闘能力を有しており、主な任務は偵察、潜入工作、暗殺、掃討、その他諸々、ようするに何でも屋だな。「普段はクソの役にも立たない融合者や、半分キチガイの謳い手、偉そうにふんぞり返ってるだけの統率者どもと違って、俺達狩人こそが特務であり、俺達が居るからこそこの国は持っているようなものだ」配属になったその日に、隊長からはそうきかされた。とはいえ、特務の顔といえば融合者の乗る巨人であり、指揮系統は統率者が握っているし、キチガイはおいといても、俺達が下っ端なのは誰の目にも明らかだ。でも縁の下の力持ちも悪くない。隊長の言ってる事は間違いじゃあないわけだしな。
 一応この人の事を話しておいた方がいいか、狩人の中でも一番の古株で、俺達FAT-37Gシリーズの大元になった人だそうだ。最初期型の隊長と違って今の世代の俺らは細かいVerupを繰り返していて性能も随分と上がっているはずなのだが、未だに隊長以上の能力を持ったものは出てきていない。驚くべき事に狩人をやっていて10歳を越えられたのは隊長だけなのだ。年齢で言えば訓練所を出たての俺とほぼ15年は違うのだが、年齢固定の同型種だから顔の造詣自体はほとんど変わらない。まぁ体中の傷跡と滲み出る雰囲気から、間違えられる事はまず無いだろうが。
 造詣といえば、さっきもそう言ったが、狩人はほとんどが俺と同じ顔をしている。一人だけそうではない人間も居るらしいのだが、今は特別任務についていて出払っているのでまだあった事が無い。世代が違えば微妙な差異が出てくるのだが、おそらく同族にしか分別できないだろう。俺と同期の兄弟は二人も入隊しているので、ほぼ同じ顔の人間が3人いる訳だ。ちなみに俺のコードネームはFat-Deerに決まった。訓練中の走ってる様が鹿のようだったかららしい。鹿ってのは見た事も聞いた事も無いのだがね。他の二人はそれぞれFat-okuokaにFat-ES2である。名前の由来はよくわからないが今は滅びたグレゴリアンの生き物らしい。普段はそれぞれコードネームに準じたモチーフになるものを身に付けるのが決まりだ。何せ顔では判別できないのでね。俺は小さな鹿の角を帽子につけているのだが、他の二人はどこに何をつけてるのかよくわからない。フグリがどうだとか空気が読めないだとかあるらしいのだが。まぁ古参の隊員には俺達の区別がついているようだ。
 特務の基地に移り3ヶ月が過ぎた。毎日訓練の日々だった。昔は違ったらしいのだが、今は基礎訓練後に覚醒手術を受けて、それをパスした者だけが高次慣熟訓練を受けるのだ。この訓練は半年間続くらしいのでまだ3ヶ月の猶予があるはず。そう高をくくって居た。
 あるあつの夏い日の事だった。訓練中の俺達新兵にもブリーフィングに参加するよう指令がきた。座学でも使っているのでブリーフィングルームに入る事自体は初めてではない。だがそこで感じる緊張感は訓練には無い本物だった。統率者が一番前でこちらを向いてふんぞり返っており、説明は我らが隊長が行っている。辺境は北島の殺幌という場所にある村が本作戦の襲撃地点である。この村は革命に反抗する叛徒どもの拠点のひとつになっているらしく、当然のように今回の任務はそれの殲滅だと思った。
 「今回のミッションでは、各人『ニガヨモギ』B兵装、及び抗BC兵器装甲服を装着せよ」隊長がそういうと、皆にそれとわかる緊張が走った。たかが叛徒を潰すのに生物兵器を使用するのか?おしゃべりなぞする者は居ないが、全員が同じ疑問を持っていることだけは確かだったろう。最後に隊長が質問のあるものは挙手せよ、と言ったのだが誰も手は上げなかった。新兵である俺たちも含めて、誰も任務に意味を求めたりはしない。装備以外の作戦行動に異論は無いし、その程度のものであれば疑問に思いながらも命令従うだけだから。そしてブリーフィングは解散した。
 ニガヨモギの扱い自体なら慣れたものだ。真っ暗闇でも分解・整備・組立が可能なように叩き込まれている。普段から自分の分身のように扱う事を求められるのだ。名前をつけているヤツも少なくない。okuokaなぞは夜になると「マイメロちゃ〜ん。カワイイよ〜。僕だけのために笑っておくれ〜♪ハァハァ」とか言って撫ぜながら息を荒くしている。それはともかく「ニガヨモギ」はどちらかといえば対人兵器であり、既に人を超えた人魔や恐るべき怪物である鋼魔にはあまり有効な兵器ではない、という講習を受けたことがある。今回の出動がが叛徒相手なのであれば十分過ぎる兵器だろう。
 「単なる治安維持なら俺らが出張るほどの事じゃねえよなぁ」対生物・化学防護服を身に纏い、3人で互いにきちんと装備できているかチェックをしながら声をかける。気密性には充分に留意しなければならない。
 「そりゃあな。だいたい、武装した農奴が相手だろうと、B兵装は行き過ぎだ」同じ事を考えていたのだろう、ES2がヘルメットをつけながら返事をした。
 「初任務でこれを使う事になるとはな……俺のカワイイマイメロちゃんが臭くてヤバイガスをこくZeeeeeeee」okuokaは一人テンションが高かった。
 いわば俺達は一卵性の三つ子のようなものなのだが、やっぱり人間てのは変わって行くものだな、とその時思った。ともあれ3人とも任務に対して、不信とまではいかないまでも疑問があったのは確かだ。俺達は最強のトップエリートなのだから!つまらない任務に駆り出されるはずがない。どうせ考えるのは俺達の仕事ではないのだ。ここで悩んでいても何も始まらない。ただ与えられた任務をこなしていくだけだから。
 装備を整え三重のチェックルームを素通りし(帰りに使う事になる)方舟の停泊している空港行きのジープへと向かう。隊長や先輩達は既に先に来ていた。3人足並みそろえて駆け足で近づき、急いで敬礼をする。「作戦行動時は常に余裕を持って行動しろ。定刻まで20秒しか余裕がない。僅かな逡巡が生死を左右する事になる。生き残りたければ改善しろ。そのつもりが無いのなら俺の盾になって死ね」そう俺達に告げる隊長は眼がマジだった。心底からそう思っているに違いない。試験を通ってからずっと浮かれていた気分に冷水を浴びせられたような気がした。甘えていたつもりはない。だが驕りがあった。これから逝くのは戦地であり、平均寿命5年は洒落ではないのだ。



後編へ続く